バイクの走り方の話は、たいてい「操作のしかた」として語られます。ただ、公道で本当に効くのは操作そのものより、車の流れの中で自分をどこに置くかと、まわりの車が何を考えているかのほうです。
ここでは、実際の道路で使える組み立てを順に書いていきます。後半では、レースのライディングフォームがなぜ今の形になったのかをたどります。読み物として面白い話ですが、そのまま公道に持ち込むものではありません。その線引きも最後に書きます。
車の流れに乗る
公道でいちばん大事な考え方です。まわりと違う動きをしているバイクが、いちばん読まれません。
- 流れより遅いと、追い越されます。追い越す車は、こちらの横を通ります。幅寄せされたり、追い越した直後に前へ入られたりします。自分は何もしていないのに、危ない状況を作られます。
- 流れより速いと、予測されません。「あのバイクはあそこにいる」という他の車の認識が、実際より後ろにずれます。車線変更してくる車は、その古い認識で動きます。
- 流れの中で、少しだけ前寄りにいる。車の真横や斜め後ろに居続けるより、相手から見える位置にいるほうが安全です。
車間距離
四輪より広めに取ります。前の車が急に止まったとき、バイクはブレーキをかけながら車体を安定させる必要があるぶん、余裕が要ります。前車の向こう側が見える距離まで下がると、その先の状況も読めます。
ただし空けすぎると、車に割り込まれて結局詰まります。「前車の向こうが見える」くらいが目安です。
車線のどこを走るか
車線の幅の中で、どこを通るかを意識している人は意外と多くありません。ここは選べます。
| 位置 | 良いところ | 気をつけること |
|---|---|---|
| 車線の右寄り | 前が見える。対向車からも見えやすい。右折の準備がしやすい | 対向車に近い。センターライン上は滑りやすい |
| 車線の中央 | 左右に余裕がある | 車が落とした油が溜まる場所です。雨の日はとくに滑ります |
| 車線の左寄り | 追い越されにくい。左折しやすい | 路肩の砂・落ち葉・段差。路上駐車。左折巻き込み |
どれが正解ということはなく、場面によって使い分けるものです。ずっと同じ場所を走らない、と考えると分かりやすいと思います。
- 交差点が近づいたら、右寄りへ。対向の右折車から見つけてもらいやすくなります。理由は次の節で書きます。
- 大型車の左後ろには入らない。トラックやバスの左側は、ミラーでも見えない範囲が広く、左折時に巻き込まれます。追い越すなら右から、一気に。横に並んだまま走らないことです。
- 雨の日は、わだちの間を避ける。油が集まっています。わだちそのものの上を走るほうが、まだ滑りません。
「見える位置」に居る
バイクは小さいので、車のドライバーから見て簡単に消えます。物理的に隠れることもあれば、見ていても認識されないこともあります。
- 前の車のミラーに、自分が映っているか。映っていないなら、相手から自分は存在していません。ミラーが見えない位置なら、そこはこちらも見えていない位置です。
- 車の真横に並んだまま交差点に入らない。半車身ずらすだけで、相手の視界に入る確率が変わります。
- 並走する車の陰に入らない。対向車から見ると、車の後ろにバイクが隠れます。右折車はそのまま曲がってきます。
- 信号待ちからの発進は、先に出る。横に並んだまま加速すると、車の死角に居続けることになります。先に出て、見える位置を取ってしまうほうが安全です。
- 目が合っても、安心しない。見られていることと、こちらの速度と距離が正しく認識されていることは別の話です。
交差点 ― 右折車は、こちらの加速を知らない
交差点で直進しているところへ、対向の右折車が出てくる。バイクに乗っていれば、何度かひやりとしたことがあると思います。
相手が乱暴なのではありません。車にしか乗ったことのないドライバーは、二輪の加速を身体で知らないのです。
だから、こうします
- 交差点の手前では、加速しない。これがいちばん効きます。相手が見積もりを立てた後にこちらが速くなると、ずれがさらに大きくなります。速度は一定か、わずかに緩めるくらいで通過します。
- 相手の車の「前輪」を見る。ドライバーの顔や目より、前輪のほうが早く正確に意図を教えてくれます。わずかでも動き始めたら、来ます。
- 車の陰から早めに出る。並走している車の後ろにいると、右折車からは見えていません。交差点が近づいたら、見える位置へ移動しておきます。
- 右足・右手をいつでも使える状態に。構えているだけで、反応が一拍早くなります。
- 「来るかもしれない」で通る。相手が止まっていても、動き出す前提で通過速度を決めておくと、実際に出てきたときに間に合います。
前が詰まったとき
路上駐車を避ける
止まっている車を避けるときは、早めに、大きく動かない。直前で急に膨らむと、後ろから来る車が反応できません。手前から少しずつ、進路を変えていきます。
そして止まっている車のドアは開きます。運転席に人が乗っているか、テールランプが点いているか。避けられないほど近くを通るなら、いつでも止まれる速度まで落とします。
渋滞の中を進むこと
車の間を抜けていく走り方については、ここでやり方は書きません。状況によっては違反になり、事故が起きたときの扱いも一律ではないためです。
ただ、事実として言えることはあります。車と車の間は、まわりから見えない場所です。車線変更しようとしている車、Uターンしようとしている車、開こうとしているドア。どれもこちらを見ていません。速度差が大きいほど、対応できる時間が短くなります。
渋滞の最後尾
高速道路でも一般道でも、渋滞の最後尾に着いたら、後ろを気にしてください。後ろから来る車が気づいていないことがあります。ハザードを焚く、車間を空けて止まる、逃げ道を確保しておく——このあたりが実務です。
カーブ
公道のカーブで守ることは、ひとつに絞れます。入る前に速度を落としきる。古くから「スローイン・ファーストアウト」と呼ばれてきた考え方です。
-
まっすぐなうちに、減速を終える
車体が起きている間にブレーキを使います。「これくらいで曲がれるだろう」ではなく、「思ったより急でも曲がれる速度」まで。初めて走る道ほど、想像より1段落としてください。公道のカーブは、先がどうなっているか分かりません。
-
寝かせ始めたら、ブレーキは基本的に使わない
傾けている最中のブレーキは、車体を起こそうとする力になります。慣れた人は意図的に残すこともありますが、公道では、寝かせる前に減速を終えておくのが確実です。
-
視線を出口へ送る
顔ごと向けるくらいでちょうどいいです。バイクは、見たほうへ行きます。目の前を見ているほど車体はふらつき、遠くを見ると安定します。
-
出口が見えてから、スロットルを開けていく
車体が起き始めてから、じわりと開けます。早すぎず、閉じっぱなしにもしない。一定か、わずかに開けている状態がいちばん安定します。
ブレーキ
- 止まる力の大半は前ブレーキです。減速すると荷重が前に移り、前輪が路面を強く押します。後ろだけで止まろうとすると距離が伸びます。
- いきなり握らず、じわりと立ち上げる。一呼吸で荷重を前に移してから効かせると、同じ握力でもよく止まります。
- 後ろブレーキは、車体を落ち着かせるために使う。止めるためというより、姿勢を安定させる役です。
- ABSは「転ばないための装置」です。ロックを防ぐもので、止まる距離が必ず短くなるわけではありません。
- 濡れた白線・マンホール・橋の継ぎ目の上では、ブレーキも曲げる操作も控える。ここで滑る話は、ベテランでも例外ではありません。
高速道路とツーリング
- 追い越し車線に居続けない。後ろから速い車が来ます。走行車線に戻る癖をつけたほうが、結果的に楽です。
- 大型車の横を通過するとき、風が変わります。トラックの脇に入ると風が消え、抜けた瞬間に横風が戻ってきます。身構えておくだけで、ふらつき方が変わります。通過は短時間で済ませます。
- トンネルの出入り口は、風と明るさが急に変わる。出口の横風は毎回あります。
- 1時間に1回は降りる。バイクの疲れは、そのまま操作に出ます。「まだ行ける」と思っているときが、いちばん判断が鈍っています。
- 知らない道は、先が読めない前提で。カーブの深さも勾配も分からないので、いつもより余裕を残した速度で走ります。
雨の日と、夜
雨
降り始めがいちばん滑ります。路面の油が浮くためです。白線、横断歩道、マンホール、鉄板、橋の継ぎ目——塗ってあるもの・金属のものは全部すべると考えてください。その上では、曲げる・止める・開けるのどれもしない。まっすぐ、一定で通過します。
夜
対向車のライトで、路面が見えなくなります。まぶしい間は、路面の穴も落下物も分かりません。すれ違う前に速度を落としておくのが実務です。対向車を直視せず、自分の車線の左端を目安に走ると、目がやられません。
- 秋は落ち葉、冬は凍結。とくに橋の上、日陰、トンネルの出口は、路面温度が違います。
- 夕方は、いちばん見つけてもらえない時間帯です。明るさが中途半端で、ライトも目立ちません。明るい色のウェアが効きます。
久しぶりに乗る方へ
何年か降りていて、また乗り始める方は多くいらっしゃいます。楽しい時間ですが、当時と今とで、ずれているものがあります。
| ずれているもの | 中身 |
|---|---|
| バイクの性能 | ブレーキもタイヤも、当時とは別物です。よく止まり、よく曲がります。同じ操作で同じ結果にはなりません |
| 記憶にある腕前 | いちばん上手かった頃の感覚が残っています。身体はその頃で止まっていません |
| 交通量と道 | 車の数も、道の作りも、信号の制御も変わりました |
- 最初の数回は、短く・明るいうちに・空いている道で。いきなり長距離に出ないほうが、楽しさが続きます。
- 広い場所で、止まる練習だけしておく。今の身体と今のバイクで急制動の感覚を一度確かめると、自信の置きどころが決まります。
- 装備を先に更新する。古いヘルメットは、見た目が無事でも中身が劣化しています。
- 講習会に出る。警察や関係団体が、しばらく乗っていなかった方を含めた講習を開いています。安くて、いちばん確実です。
ライディングフォームは、なぜ今の形になったか
ここからは読み物です。公道でそのまま真似するための節ではありません。
3つの基本形
| フォーム | 身体と車体の関係 | 使われる場面 |
|---|---|---|
| リーンウィズ | 身体と車体が同じだけ傾く | もっとも基本。教習所で習うのはこれです |
| リーンイン | 身体を車体より内側へ | 車体の傾きを抑えたいとき |
| リーンアウト | 身体を車体より外側へ | 低速の取り回し、オフロード、滑りやすい路面 |
ハングオフは、なぜ生まれたか
膝を出して腰を落とすあの形は、日本では長く「ハングオン」と呼ばれてきましたが、これは和製英語で、正しくはハングオフです。
起源には諸説あります。アイスレース出身のフィンランド人ライダー、ヤーノ・サーリネン(1972年の世界GP250ccチャンピオン)が氷上の技法をロードレースに持ち込んだ、という説。そしてケニー・ロバーツ(1978年から3年連続の世界GP500ccチャンピオン)が完成させ広めた、という説。ただし1960年代にはすでに腰を落として膝を開いて走るライダーがいたとされ、どちらの説にも異論があります。
ロバーツの時代のハングオフと、今の形は別物です
ここは押さえておきたいところです。「ハングオフ=ケニー・ロバーツの形」で止まっている解説が多いのですが、レースのフォームはその後も変わり続けていて、今は当時とかなり違います。
| 年代 | 路面に近いところ | 車体の傾き | 何のためか |
|---|---|---|---|
| 1950〜60年代 | つま先 | 45度くらいまで | 傾きの目安を足先で取る。ブーツが削れた |
| 1970〜80年代 サーリネン/ロバーツ | 膝 | 浅い | 車体を寝かせずに曲がるため。膝は支えと目安 |
| 1990〜2000年代 | 膝 | 60度近くまで | タイヤが良くなり、寝かせられるようになった |
| 2010年代〜 マルケス以降 | 肘(肩まで擦る例も) | 60度超 | 上体を極限まで落とし、寝かせたうえで後輪のグリップを稼ぐ |
ラジアルタイヤは1985年から。2003年にブリヂストンが参戦してから横方向のグリップが一段上がり、膝より先の目安が要るようになりました。マルケスが肘を擦り始めたのが2010年代で、今は下位カテゴリーでも当たり前になっています。
ほかにも、当時には無かったもの
- 身体の落とし方が「横」から「下」へ。ロバーツの頃は腰を内側へずらして膝を出す形でした。今は上体ごと低く沈み、頭の位置が当時よりずっと低くなっています。肘が届くのは、そこまで落としているからです。
- ブレーキングで内側の足を投げ出す。いわゆるレッグダングルです。2005年のヘレスで、ロッシが最終コーナーでジベルナウを抜いたときの映像が有名になり、広まりました。ロバーツの時代には無い動作です。腕や脚の負担を減らす・重心を下げる・空気抵抗で減速を助ける、など説明は色々ありますが、定説はありません。ロレンソのようにまったくやらないチャンピオンもいました。
- 機材が、ライダーの入力より効くようになった。電子制御、カーボンブレーキ、ウイングレット、そして車高調整デバイス。マルケス自身が「空力と車高デバイスでライダーの入る余地が減った」という趣旨の発言をしています。
- そのフォームも、また変わります。2027年から車高調整デバイスが全面禁止になり、空力も縮小、排気量も1000ccから850ccへ下がることが決まっています。機材が変われば、乗り方も変わります。
フォームに「正解の形」があるのではありません。そのときのタイヤと機材とルールに合わせて、変わり続けてきた——これがいちばん大事なところです。だから、今のMotoGPの形も、ロバーツの形も、どちらもそのまま公道の手本にはなりません。
公道に持ち込んでいいもの、いけないもの
持ち込んでいい
視線を遠くへ送ること。上体の力を抜くこと。下半身で車体を支えること。スロットルを急に開け閉めしないこと。入る前に速度を決めること。
——どれも余裕を増やす方向の技術です。
持ち込まない
膝を擦ること。限界までのバンク角。寝かせたままブレーキを残すこと。アウト・イン・アウトのライン取り。
——どれも余裕を削って速さに変える技術です。公道には、削っていい余裕がありません。
上手くなりたいなら、場所を変える
公道で練習して上達しようとすると、失敗の代償が大きすぎます。伸ばすなら、転んでも致命的にならない場所で。
- 安全運転講習会。警察や関係団体が開いています。白バイ隊員が指導することもあります。費用も安く、内容は実践的です。
- メーカーや販売店のライディングスクール。基本的な操作から教わり直せます。
- サーキットの走行会。膝を擦りたいなら、ここでどうぞ。それが正しい場所です。
- 広い場所での低速練習。8の字、急制動、Uターン。地味ですが、公道でいちばん効きます。
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公道は、位置取りと読みで走るものです
速く走る技術より、まわりの中で自分をどこに置くか。相手が何を考えているか。そこが分かってくると、走ることそのものが楽になります。長く乗るほど効いてくるのは、こちらのほうです。
※ 記載の内容は一般的な考え方です。車種・路面・交通の状況によって、適切な判断は変わります。
※ 走行はご自身の判断と責任で行ってください。技術を身につけるには、講習会やライディングスクールなど、指導者のいる場でお習いになることをおすすめします。